親父は、今ぐらいに朝が寒くなると釣りへ行く意欲がしゅんと失せてしまう。 雪国生まれのクセに。だからうちの夫婦が今シーズン食べられる
カワハギは冷凍庫に残った数尾となった。
今年も夫婦で何尾食べたか。 ひとり30尾は食べているだろう。 小振りなものばかりなので、刺身は親父が気の向いた時に多くのカワハギから小さい肝を集め、多くのカワハギをおろして食べる。 大きさこそ違えど料理屋に行ったら目ん玉が飛び出るような値段だ。
高いだけあって肝醤油で食べる刺身が絶品なのは知られているだろうが、私は塩焼きとみそ汁が好きだ。 これこそ一日で何尾食べるか、という話である。
金のかかる船釣りなんかできるはずもなく、親父は麦わら帽子をかぶって、私が子供の頃から持っている道具を持って、大勢が竿をおろしている防波堤からは離れた内港で、一箇所に落ち着かず、ちょろちょろ場所を変えては密かにカワハギを釣り上げている。
地元の爺さんには何人か顔なじみもいるらしく、そういうひとは勝手に親父のクーラーを開けたりするので釣果を知っているが、東京などから来た人に 「おじさん、どう、釣れる?」 なんて訊かれた時には面倒なので 「ダメだねえ・・・」 と答えるのだという。 実は腰掛けているクーラーにはカワハギがびっしり。
実の親を誉めてもしょうがないが、「名人」 の域と言ってもいいのではないかと思う。 それほど毎年釣っている。 この、カネのかからない、しかしとびきり釣るのが難しくとびきりおいしいカワハギ釣りの極意を誰か継いでくれないかと思って、贔屓の料理屋さんを親父との釣りに誘ったりしているが 「息子が継げよ」 って話だよなそりゃ。