「柿ちゃん(←実際は本名に由来するあだ名)さあ」
「ん?」
と聞き返すと、遠藤はこう言った。
「柿ちゃんさあ、もしオレが女だったら、オレのこと好きになってくれる?」
百歩譲って 「オレが女だったら柿ちゃんのこと好きになってもいい?」 ならわかるが、「オレのこと好きになってくれる?」 なんて言われても、おまえが女だったらどんなもんか、なんて想像のしようがない。 つくづく変わった男だ。
大学時代はよく遠藤のクルマで帰省した。 遠藤は 「カセットテープを余らせる」 のがキライで、曲が途中で終わろうがなんだろうがテープいっぱいにレコードを録音する。 そのテープを聴きながら箱根を越えると、もうすぐ家に着く。 遠藤も含めた高校の同級生と毎日のように遊ぶ。
ある日もいつものように遠藤を誘うと、
「うーん、今日は家にいるよ。 親父もいることだし」
と断られた。 ちなみに遠藤は別にその芦屋小雁に似ている親父と仲がよいわけではない。 つくづく変わった男だ。